しましまの恋、甘いジレンマ。

私は教師にならなかったんじゃない、なれなかった。

資格自体は持っている。小学校の社会と歴史。
英語と数学の教師である母親の娘とは思えない選択肢。
頭の出来が残念だったというのも大きく関係しているけれど。

それ以上に子どもたちと共に歩む将来像を想像できなかった。
人が嫌いという事でもないし、ずっと両親を見て育ったはずなのに。

母曰く「貴方も子どもみたいなものじゃない」と笑っていたけれど。
それはけなしているのかフォローしているのか。

なんて、過去の自分を振り返ったりするのはお酒のせいかな?
それとも話し相手がいるからか。

「どうかしましたか」
「あ。いえ。…知冬さん、子ども苦手なのによく先生出来ますね」
「たまに知り合いの子どもの絵を見たりするんですが、たいして上手くも
無いくせに生意気で。最近の子どもは理屈ばかりで辟易しますよ。
あの学校の子どもたちは適当にあしらっていれば喜ぶので楽ですけどね」
「そ、そうですか。良かったです…ね」

そう言うと知冬は酒をぐいっと飲む。
食前酒と言って飲み始めたわりにもう3杯目だけど大丈夫だろうか。

「ところで」
「はい?」
「貴方がよく話をしている男性は恋人かなにかですか?」
「え。え?……あ、よくジャージ着てる人?なら同級生なんです。小中高と」
「……」
「先生になった途端に美人さんと結婚しちゃって。ほんとちゃっかりしてる」
「仲が良さそうですよね、とても」
「悪くはないです、腐れ縁といいますか。先生になるなんて言ってなかったのに
まさか同じ職場になるとは思わなくて」
「……」
「……えっと。知冬さん、気分、悪いとかですか?」
「何がですか」
「だって。凄い黙っちゃって。もう4杯目だし」

急に黙ってしまって心配になる。飲み過ぎて気分が悪くなったのだろうか?
もうそろそろやめたほうがいい、志真も夕飯の準備もしないといけない。
それに外へお風呂も行くのだからベロベロに酔っ払ったら大変。

「…これくらい普通ですよ。貴方こそ、1杯だけ?」
「私が酔っちゃったらご飯出来ないじゃないですか。お腹すいてきたし準備します」
「そうですか。…お願いします」
「ほら。もう撤収!」

知冬の手からグラスを奪い残っていた酒を志真がぐいっと飲み干す。
お水のように飲んでいたからそんな強くないと思ったけれど、
含んだ瞬間吹き出しそうになるほど強かった。少なくとも志真には。

「大丈夫ですか」
「だ、大丈夫。…じゃ、じゃあ、魚焼きます…」

これ料理に使うようなやつじゃないの?
台所で水を飲みゲホゲホしながら調理の仕上げに入る。
今日は焼き魚と具だくさんのお味噌汁と、
知冬がこれなら食べられると選んでもらったナスの漬け物。

どうも彼は肉がそれほど好きじゃないっぽい。

あと、味付けは甘めが好き。

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