しましまの恋、甘いジレンマ。
テオドールさん


母はよく考えなさいとだけ言った。
考えなさいと言われても困るのですが。

どうしたものか。

せっかく自分を信じて遺産をくれようとしている人を騙すようなことは。

「え。い、いや。俺、ふつーに既婚者だぞ?」
「ほら、来月奥さん出産でしょう?出産祝いに50万」

散々悩んで出した結論が
「旦那は無理だからとりあえずの婚約者をたてよう」という酷いもの。
自分でも悪いと思っているけれど仕方ない、それ以上が浮かばないのだから。
もしかしたら自分もおばさん同様、ずっと一人で生きていくのかもしれないし。
そうなればお金はあったほうがいい。

なにより欲しいのは家。

さっそく職場である学校でちょうど良さそうなのに声をかける。

「婚約者のフリで50万なあ。俺犯罪とか無理だからな、公務員だし」
「私だってそうです。犯罪じゃないんです」
「志真、お前もいい歳なんだからさ。彼氏というか、旦那見つけろ」
「西田先生、それは立派なセクハラになりますが」
「とにかく。グレーな事はしない。親にかっこつけたいなら他にも居るだろ。じゃあな」
「ああっ」

同級生だったよしみで了承してくれるかと思ったがやはり妻子持ちはダメ。
次は誰に声をかけようか。困った。友人は女ばっかり。
それも皆さんご結婚なさってからは気を使って距離が出来てしまった。

「あの。スミマセン」

廊下をぼんやりと歩いていると不意に呼び止められて振り返る。

「……え?」
「さっきのお話、なんですけド」
「……は!?」

なんでだろう、目の前に長身で青い瞳の外国の人が居る?
うちの学校のALTはずんぐりな愛嬌のあるラテンなおっちゃんであり、
こんなイケメンではないはず。

「僕でよかったらご協力しますヨ?」
「その前に何方ですか?」
「あれ?朝職員室で挨拶しませんでした?今日からこちらの学校に
美術講師としてお世話になるテオと申します」
「は、はあ。そうですか。すみません、気付かずに」
「いえいえ。真剣なお顔で考え込んでいるようでしたのデ」

どうしよう。

協力してくれるのは嬉しいけど、

ここまで来ると逆に嘘っぽくない?

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