次期社長の甘い求婚
そんなことを考えながらも、すっかり慣れてしまった蛍光灯の交換をしていると、静かな廊下に響く足音が聞こえてきた。


コツンコツンと近づいてくる音に交換を終え視線を向けた瞬間、思わず「げっ」と素直な心の声が漏れてしまった。


素直な感情は声だけではなく、顔にも出てしまったというのに、こちらに近づいてくる人物は決して笑顔を崩すことはない。


「お疲れ様」


脚立の下までくると、爽やかな笑顔で労いの声を掛けてくれたものの……。相変わらず私の顔は引きつったまま。


え、どうして神さんってば普通に声を掛けてこられるの? 私昨日、散々なことをこの人に言ったはずだよね?


もう二度と声を掛けられることはないと信じて疑わなかった私には、予想外なことすぎて脚立に乗ったまま硬直してしまう。


「交換終わったんでしょ? だったら早く降りたら。正直、あまり見下ろされているの、好きじゃないんだ」

「あっ……すみません!」


そうだよね、相手は我が社の次期社長である御曹司様。
見下ろされているなんて、気分が悪いに違いない。


どうして昨日の今日で声を掛けてきたのか謎だけど、今はとにかく早く脚立から下りなくては。
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