次期社長の甘い求婚
亜紀は大袈裟だと思う。
そもそもただ平凡の幸せを願っているだけで、なんで人生を損していることになるというのだろうか。


黙り込んでしまった私に追い打ちをかけるように、亜紀は話を続けた。


『これは美月のためを思って言っているんだからね。逆に私は幸せになってやる!! くらいのガッツを見せなさいよ』


分かっているよ、亜紀が私のためを思って言ってくれているのだと――。

それでも昔から培ってきた辛い記憶は、そう簡単に消えてくれそうにないんだ。



* * *



私には生まれた時から父親はいなかった。

幼少期はお母さんとふたりっきりの生活になんの疑問も持たなかったし、それが当たり前だと思っていた。

当たり前じゃないんだって思い知らされたのは、幼稚園に通い出した頃だった。


「どうして美月ちゃんは、パパがいないの?」


友達に何気なしに言われた言葉に、近くにいたお母さん達が慌て出したのを今でもよく覚えている。
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