レーザービームの王子様



スタンドにいた人たちが続々と出口に向かっていく様子を、ぼんやり眺めていた。

松永さん夫妻も、とっくに席を立っている。けれども私はなかなか重い腰を上げられずに、エキサイティングシートの片隅で試合の余韻に浸っていた。


初めて球場で観戦した、自分のファンチーム以外の試合。

それが思いのほかおもしろくて、不覚にも楽しんでしまって。

そしてそんな良ゲームの一端を担ったプロ野球選手とハイタッチできただけでなく、なんだかとってもいい笑顔まで向けられて。


……なんか、平凡なOLの私にしてみたら現実からかけ離れすぎて、夢でもみてた気分。

そもそも、偶然居酒屋で絡んだ相手がプロ野球選手ってあたりからミラクルだったよね。あまつこんないい席のチケットまでもらうし。

たぶん、もう。私が久我 尚人と会うことは、二度とないんだろう。

だって、相手はプロ野球選手だ。一般人の私とは、住む世界が違う。

さっきの──ハイタッチのときは、少しだけ、近い存在に感じたけど。


うん、いい夢だった。今日は日曜日だから、明日からまた仕事に身を費やす毎日が始まる。

いい加減私も帰らなきゃと、ようやく座席から腰を浮かしかけたそのとき。



「あ、すみませんっ、そこの人……っ!」



バタバタと慌ただしい足音とともに、背後から声が届く。

私のまわりはすでに空席だらけだ。てことは、『そこの人』って私?


背もたれに手を乗せながら振り返ってみると、首からネームカードを下げた球場スタッフの男性が階段をおりてくるところで。

……やば、早く帰れって言われるのかな?

そう考えて、私は立ち上がる。
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