私と彼をつなぐもの。
「あ、あの……今日はちょっと買い物してなくて……」


「別に飯はいいよ。嫌なんだろ。」


「そういうわけじゃ……」


ズキン。と痛む心。
嫌なわけなんてない。むしろ本当は二人で一緒にご飯を食べたくて、一人じゃ作る気がしなくて最近はインスタントばっかりだ。


「明日、ウサギ屋のじいさんが退院するらしいから。俺、迎えに行ってくるわ。」


おじいちゃん、退院できるんだ。よかった。あのおじいちゃんの事だもん、きっとすぐ店を再開するんだろうな。


そしたら本当に私と黒宮さんは終わり。


「お前明日は?」


「………行きたいんですけど、明日は朝から仕事なんです。」


無理して笑った。


「あっそ。」


隣を通りすぎる黒宮さんの表情が少しだけ悲しそうなのは気のせいかな?


私がそう思ってほしいから。


「っつ!黒宮さんっ!」


最後かもしれないと思うと名残惜しくて引き留めてしまう。


「今までいっぱいお土産ありがとうございましたっ!」


これでもかってくらい頭を下げて深くお辞儀をする。
見えているのは黒宮さんの靴の先で、今どんな顔をしているのかなんてわからない。
でもそれでいい。
今黒宮さんの顔を見たら、きっと頭のなかに焼きついて離れなくなるから。


黒宮さんの顔を見ないように自分の部屋へと逃げた。


ドアをしめて、ズルズルっとその場にしゃがみこむ。


「…………なにやってんだ。私は。」


自分の弱さに本当に悲しくなる。
でも怖いんだもん。どうしようもなく、怖い。
こんなにも好きになったのは初めてだったから、失うのが怖い。
どうせ失うのならいっそ、自分から手を離してしまいたかった。







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