毒舌王子に誘惑されて
3.冬来りなば、春遠からじ
「うーん、この顔で外に出ていいのかなぁ・・酷すぎる」

靴箱の隣に置いてある全身鏡でコーディネートをチェックする。
出勤前の日課にしているのだけど、今日は洋服以前に顔が酷すぎた。
化粧を落とさず寝てしまったせいで肌は荒れているし、瞼は視界が狭く感じるほどに腫れていた。

本当は、朝から何度も今日は休んでしまおうかと考えた。
携帯で編集長の番号を呼び出しては、発信ボタンを押さずに消した。


別に1日くらい休んだってどうって事はなかった。
有給は溜まってるし、編集部のメンバーは社内で仕事をしていることなんてほとんどないから目立ちもしないだろう。


だけど、今立ち止まってしまったら二度と歩き出せない気がした。

私はそれが何よりも怖かった。



「あ、久しぶりにこれ履いていこうかな」

このところ定番になっていたフラットシューズの隣に置いてある黒のパンプスが目にとまった。

念願の出版社に就職できた記念に買ったフェラガモのパンプス。
当時の私にはびっくりするお値段だったけど、このパンプスが似合うかっこいい女性になりたいと思って奮発したんだよね。

ここぞという時しか履かないからまだ綺麗だ。
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