毒舌王子に誘惑されて
左隣はと言えば、これまた仕事に着てくる服とは思えないパーカーにジーンズ姿の男。 明るい茶髪には緩くパーマがかけられている。

バイトの大学生か契約のライターさんだろうか。さすがに社員ではないよね。

さりげなく周りを見渡してみたけど、サブリナとは違いほとんどが男性だった。それもお洒落とは縁遠い冴えないタイプばかり。

うん、これくらいは予想してた。
ショックなんて受けてない、受けてないよ。

私は必死に自分に言い聞かせる。


後ろからバタバタと騒がしい足音が聞こえてきて、私は椅子ごとくるりと振り返った。


「あぁ、佐藤さん。ごめん、遅れて。
週刊リアル編集長の高田です」

そう言って走りこんできた高田編集長が私に握手を求めた。

私は慌てて立ち上がり、差し出された手を握り返す。

どこにでもいそうな普通のおじさん。
だけど、穏やかで人が良さそうだ。

編集長がまともだった事に、私は心の底から安堵した。


「佐藤です。よろしくお願いします」

「いや〜、困ったな。 佐藤、かぶっちゃったね」

「え?」

「あそこの彼も佐藤なんだよ」

編集長の視線を追う。

どうやら、もじゃもじゃ頭も佐藤さんと言うらしい。

まぁ、ありふれた苗字だしね。

「巨乳の佐藤って呼ばれてて、この業界じゃ有名なんだよ。 エロ記事のエキスパート。いわば、週刊リアルのエースだな」


ーー頭がクラクラした。

つまりエロ記事が看板ってことよね!?

私、ここで何かの役に立つのかな・・。
配属を決めた人事の見る目の無さが無性に腹立たしい。


「美織さんでいいんじゃないすか?」

そう提案したのは、茶髪の彼。

チャラチャラしてるけど、顔立ちそのものはすごく綺麗な子だった。
長めの前髪からのぞく色素の薄い茶色の瞳、瞳を縁取る長い睫毛、すっきりと通った鼻筋に細い顎。

やや垂れ目なのが整い過ぎた顔を優しい印象にしている。

ーー大学生にしては老けてるか。


「あぁ、そうだな。 じゃ、彼女のことは名前で呼ぶことにしよう。

美織ちゃん、当面はこの葉月と組んで動いてもらうから」

三十路にもなって美織ちゃんはちょっと・・と思ったけど、反論する気力もおきなかった。
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