(短編集)ベッドサイドストーリー・2
・彼は私のもの


 ・彼は私のもの



 部屋の中で、女二人がにらみ合っていた。

 30分前に一人の女がもう一人の女の部屋のインターフォンを押して訪ねてきたのだ。それから少しの自己紹介と、観察と判断、あざけり、駆け引きのような言葉があって、現在は冷蔵庫が開けっ放しなのかと思えるほどの冷気が部屋の中に漂っている。

 女の一人は伊川雅美、31歳のモデル。最近は若い子むけのファッション雑誌ではなく、主に通信販売の雑誌での仕事が多くなってきてはいるが、スラリとした長い足と細面の顔、ツヤツヤと輝く黒髪を胸下まで垂らした綺麗な女である。

 彼女は今、アイラインを丁寧にいれた切れ長の瞳をキッと吊り上げて、目の前の若い女を睨みつけていた。

 もう片方は山口類、25歳の企画営業。雅美よりも頭一個分低い身長、栗色に染めた髪はふんわりとパーマがあてられて、肩先でゆるやかに揺れて輝いている。雅美がもつアジアンビューティーな美しさとは違って、こちらは洋風な魅力を備えた「可愛い」女であった。大きな瞳は睫毛がたくさんはえていて、それは完璧な形で上をむいている。涙袋がぷっくりと膨らんでいて、そのピンク色の唇にはなめまかしい縦皺がいくつか入っていた。

「だから、何度もいいますが」

 類がはっきりとした発音で雅美に言った。

「祐司君は、私の彼です。付き合いだして半年になりますけど、あなたのことなんて一度も聞いたことがないわ」


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