契約彼氏はエリート御曹司!?【試し読み】
オフィスの中央を縦断するように、丸い四つのテーブルが置かれており、その間を、過去のことを思い出しながら通ってデスクへ向かう。
ライトグレーのオフィスインテリアで統一された設計部の室内は、大きな窓と天井に埋め込まれたダウンライトで明るく、開放的な空間となっている。
このフロアでは約四百人が働いていて、半分が設備課の人たちで半分が構造課の人たち。さらに設備課のうち約四十人が照明部門の人たちだ。
デスクを四つ合わせてひとつの班を作っていて、大きな業務は班ごとに担当する。先ほどの打ち合わせは班の中でも、私と広瀬くんが任されている業務だった。
広瀬くんは私が教育係をしたこともあり、席が左隣と近く、何かと一緒に仕事をすることが多い。
私はデスクに荷物を置くと、壁沿いにズラリと並んだ棚に、共有のファイルを戻した。
「聞いてください、笹部さん。瀬那さんがすげぇ有名人になってますよ」
広瀬くんは席に着くなり、私の向かいで仕事をしている笹部さんに声をかけた。
私が「放っておいて」と言ったことは、すでに忘れているみたいだ。
「ああ、ウワサかー……いろいろ言われてるみたいだな。まぁ、気にするなよ、瀬那。いろんな男の名前が出るってことは、それだけモテてるってことなんだから」
白い歯を見せてカラカラと笑った。
入社して十五年目になるベテランの笹部さんは、一月だというのに真夏からずっと小麦色の肌をしている。しかも、半袖のTシャツにチェックのシャツを羽織っただけの薄着なので、彼を見ていると今が冬だということを忘れてしまいそうになる。
「私がモテるわけないじゃないですか……」
気を遣ってくれるのは有り難いけど、思わず苦笑してしまう。
付き合った人数もウワサになっている二人だけ。高校のときは部活ひと筋だったし、大学では照明関係の仕事に就きたくて勉強に必死だった。
外見は派手で目立つわけでもなく、至って〝普通〟。社内でも街中でも、〝その他大勢〟に分類され、人混みにすぐに埋もれてしまうタイプだ。
男性に好かれるようなオシャレをしているわけでもないと思う。
一応流行をチェックしてとり入れてみるけど、ヒールは履かないし、ほとんどパンツスタイル。しかも、シルエットが緩めの物が多い。
スカートをはくのはクライアントと打ち合わせがあるときくらいで、現場で作業があるときは作業着にヘルメットと安全靴だ。
髪は手入れが楽なように、毛先だけ内巻きパーマをかけた黒髪のボブ。メイクは現場で汗をかくこともあるので、崩れてもひどくならないようナチュラルにしている。
だから〝モテる〟と言われてもピンとこない。
「いや、お前は仕事ができるし、信頼もある。何より一生懸命だしな。誰がどこでどう見てるかわからないぞ」
笹部さんがニヤニヤと頬を緩めた。
普段は能天気な先輩にしか見えないけど、国内外問わずいろんな照明の賞を取っている彼に、仕事を褒められると嬉しいし、自信にもなる。
ただ、誰かが仕事の頑張りを見ていてくれたとしても、ウワサのせいで好きになってもらえるとは思えないけど。
それに今は、例えウワサを知らない人でも、私がこの人をダメにしちゃうかも……なんて考えると、怖くて付き合えそうもない。