逆光






『あなたは人間です。神でも仏でもない。人を救うことだってできない』


何度も思い出したあの日の言葉。

当たり前なその言葉が総馬は何故か嬉しかったのだ。
神でも仏でもない。
ヒーローでもない。

人より少しだけ化学が得意で、和泉という女性を愛した、ただの男。

数十年後、そんな男もいたな、と和泉が思い出してくれればいい。
そんでもって、少し後悔すればいい。
あんなに自分を愛した男と別れたことを。


「………ふっ」


いつの間にか芽生えていた自身の醜い感情に笑いが漏れた。

和泉が後悔なんてするはずないのに。

無性に悔しくなって、和泉の口を口で塞ぐ。
荒々しく、奪うように。
性急に服の中に手を入れ、肌をまさぐる。







< 164 / 181 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop