逆光







翔に出した手紙は通算で十四通目になった。

翔から返事は来たことがない。
彼の母親の手によって和泉の手紙は翔の元へ届いてないのか。
それとも、翔は手紙を書く気力もないのか。

いずれにせよ、和泉から翔へ出来ることなど手紙しか思いつかなかったので和泉は手紙を書き続けている。

あの、人付き合いに執着しない和泉が、だ。
それくらい、和泉は翔との繋がりは残しておきたかったのだ。


『翔へ
久しぶり。
元気ですか。
まぁ、元気じゃなくても生きててくれれば上々だと思ってます。
シヴェル公園の桜が咲き始めました。
とてもきれいなので外を歩けるようであれば一度見に行ってみてください。
この前総馬さんと見に行ったんです。
上から降ってきた毛虫に本気で驚く彼の姿はなかなか愉快でした』


ここまで書いて和泉は筆を止めた。

カレンダーを見る。
四月。
翔へはあと何回手紙を出せるのだろう。







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