逆光




「和泉さん、女性が舌打ちするもんじゃないぞ。」


困ったように笑いながら、男は和泉を嗜める。
ふん、と鼻でそれをあしらいながら、和泉はこれからこの男と見る映画のことを考えた。

上映時間まであと40分。
連日列ができるほど人気のようだから、そろそろ並びに行ったほうがいいだろう。

無言で和泉が立ち上がると、男は「あ、時間か」と言って会計を済ませに行く。


なかなか良い男じゃないか、と周りの視線が言っている。
和泉だって、なかなか良く出来た彼氏だとは思っている。

気にくわない奴だが、気が効くし、顔も良いし、頭も良い。
親は会計士と弁護士という裕福な家の長男。
自身も薬学の世界でいくつもの賞をとり、大学の教授としてこれからも研究を続け華々しい人生を歩んでいくのだろう男。
そんな将来が約束されたような男と付き合えて、和泉は自分は本当に恵まれてるとは思っている。


だけど、この男を好きになることは一生ないんだろうな、とも確信している。



和泉はこの男には不釣り合いなくらい、ズルく自己中心的な人物だった。

救いがあるとすれば、自分でそのことを分かっていることくらいだろう。





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