逆光





「戦争を終わらせるために必要だったということは分かっている。だけど、非人道兵器を使って民間人を何万人も殺したとしても、勝った側は罪に問われないのは、違和感を覚える。」


あのままズルズル戦争が続くよりはマシだったかもしれないが。

そこで寺田総馬は足を止めた。
和泉は彼から少し離れた場所で止まる。


「色々調べてみて、今まで知らなかったことを知れたのは良かったと思う。正しいとか正しくないとかじゃなくて、お互いに譲れないものがあっての結果だということも分かった。」


難しいな、と寺田総馬は困ったように笑った。

和泉はただ黙って彼を見ていた。

少しの間の後、話は変わるが、と寺田総馬が切り出す。


「やっぱり和泉さんの考えはやめてほしい。和泉さんの生き方は認めるとしても、それに大谷を巻き込まないでくれ。」

「それは寺田さんが決めることではなくて、大谷さんが決めることです。」


余計なお世話だ、と和泉は寺田総馬を睨みつける。
やはりまだ納得していなかったのか。

和泉は深くため息をつきたい気分だった。
折角大谷と良い感じになってきてるというのに、ここで寺田総馬に邪魔されるなんて真平御免だ。

本当にこの男は余計なことしかしない。


「和泉さんだって、それじゃ幸せになれないと思うんだ。」

「人の幸せ勝手に決めないでください。押し付けがましいです。」


それぞれの枠組みの中での幸せはあるのだ。
氷の上で暮らすシロクマを、花も木々も無いところは可哀想だと陸の上に連れてくる奴がいるとしたら、それは親切でもなんでもない。
ただの自分の価値観の押し付けだ。

恋愛だけが全てではない。
親に決められた相手としか結婚出来ない時代もあって、だけどその全員が不幸だったわけではないだろう。
それで幸せに生きられたから、その習慣が続いたのだろう。

陸の上で暮らすのが生き物の一番の幸せだ。
恋愛結婚が一番良い結婚の形だ。

ふざけんな、と和泉は思った。


「この話はもうやめましょう。続けたって平行線です。」


和泉がそう言っても、寺田総馬は不満そうだった。
本当にしつこい男だ。

ああは言ったものの、この男はまた突っかかってくるだろう。
和泉にはなんとなく確信があった。




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