それを愛と呼ぶのなら。【完】




「で?何考えてたの?」


「え・・・?」


「『え?』じゃなくて。いくら普段ポーカーフェイスだからって、二十年来の付き合いなめないでよ」


「なんでもないよ。脂っこいもの食べたいな、って」


「はいはい。それも嘘じゃないと思うけどね。でも、他にもあるでしょ?気になってること」




千那は本当に目ざとい。

私の意識がどこにあるのかを、簡単に探り当ててしまう。


彼氏なんかよりもずっと、私のことを見抜くのが上手い。



だから、千那には何でも話してしまう。

いや、話せるようにしてくれているんだと思う。



私は、自分のことを話すのが得意ではない。

それを千那もわかっている。


だから、私の話したことに自分の意見を押し付けようとはしない。

私が自分で考えて、自分で決められるようにしてくれる。




そんな千那だから、私は安心して一緒にいられるのかもしれない。




「暁…もしかして…」


「お待たせーっ!!」




店長が明るい声をあげて私達のテーブルに飲み物を持ってきた。

そしてその手元を見て、私も千那も目を見開いた。




「ちょっとカズさんっ!なんで赤ワインのボトルなんて持ってるの!?」




千那が興奮気味にカズさんに向かって言った。

カズさんはこの店の店長さんだ。

ふざけたお兄さん、というのがカズさんの印象だけれど、もう四十になったなんて信じられない感じの人。




「ほんとですよ。私達、頼んでないですよ?」




そうするとカズさんは楽しそうに笑った。

ニカッと笑うカズさんは、悪戯っ子のような顔をしている。




「これは俺達から。暁、明日だろ?結婚式」




気付けば、カウンターにいたはずの店員のみんながテーブルの近くに集まっていた。



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