イケメン部長と(仮)新婚ライフ!?
一瞬、彼が私自身を味わうという、あられもない妄想が頭の中を駆け巡った。

ぼっ、と顔に熱が集まる私に、部長はクスッと意地悪な笑みを浮かべて補足する。


「あぁ、“一葉の料理の味”な」


料理かい!

心の中でツッコミを炸裂するけど、恥ずかしさは増すばかり。


「ままま紛らわしいこと言わないでください!」

「今ので変な妄想するお前がすげぇよ」


からかう彼は私の肩を軽く押して、さりげなく助手席へと促す。それに抵抗する気は起きず、結局素直に乗せられてしまった。


わ……なんだかいい香りがする。ゴミも落ちていないし、余計な装飾もないし、綺麗にしていることがすぐにわかる。

これが部長の空間なんだ……。

そう意識するとますます緊張してしまう。今さらだけど、簡単に乗せられてしまった単純で流されやすい自分をちょっぴり呪う。


でも、これも結婚シミュレーションのひとつだと思えばいいのだ。男性の家で、料理を振る舞うことにも慣れておかなくては!


「ガッツポーズして……本当は嬉しいのか」

「いやっ、これは!」


妙な気合いを入れていたら、運転席に乗り込んできた部長が真顔で言うから、私は慌てて手と首をぶんぶんと横に振った。

緊張しまくる私と、おかしそうに笑う彼を乗せ、車は夜空の下を走り出した。




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