ゆえん

Ⅱ-Ⅶ


     *  

俺の両親は、この店で俺たち三人の子どもの生活を守ってくれている。

そんなことを改めて考えたことはなかった。

毎日毎日、来る日も来る日も同じことを繰り返しながら、それをこれからも何十年か続けていくのかもしれない。

それでもこの仕事を一生の仕事としてやってきたし、これからもやっていくのだろう。

ならば俺も、自分に出来る、一生やり続けられるものを見つけなくてはならない。

人を好きになって、その人を守りたいと思うのならば、それだけのことを考えなくてはならないのだろうか。


隣の部屋のドアの音がした。

洋輔が帰ってきたみたいだ。

洋輔は今、隣の市にある大学に通っている。

専攻は経済学部だ。

俺は洋輔の部屋をノックした。


「どうした?」


俺の表情がいつもと違うことに気付いたのか、洋輔はこちらを見て俺が話し出すのを待っているようだった。


「洋輔はさ、大学卒業したらどうするんだよ」

「なんだ、進路相談か」


小さく笑って、洋輔は自分のエレキギターに手を伸ばした。

そしてタバコに火をつけ、チューニングを始める。

その様はとても手馴れている。

チューニングに関しては、俺も同じくらい出来ると思っている。

でも、普段洋輔がギターを弾いている姿を見ることがない分、ドキリとさせられる。

洋輔のギターは俺より上手いのか。



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