ゆえん

滝本が現れてから五分後に、冬真の祈りも虚しく理紗がやってきた。

それと同時の例の女子大生が、周りの学生に理紗が来たことを教えていた。

小さく口笛を吹く者もいて、人の多さと異様な雰囲気に理紗の足が止まった。

奥のテーブルで滝本が立ち上がる。


「場所、変えよう」


理紗の元に歩み寄ろうとしたときに、一人の男子学生が立ち上がり、進路をふさいだ。


「いいじゃん、ここで話しなよ」


その学生と平手打ちをした女子大生がアイコンタクトをとっている。


「お前らには関係ないだろ」

「私には関係あるよ」


女子大生は立ち上がり、滝本を見据えた。


「さおり……」

「納得いかないもの」


理紗がさおりの後ろから「ここでもいいよ」と言った。

振り返ったさおりに理紗は微笑み、滝本に視線を向ける。


「やっぱり違ったみたい。なかったことにして」


理紗の言葉を飲み込めなかったのか、滝本は言葉を失っている。

あまりにもあっさりという理紗の態度に周りも一瞬静まり返っていた。

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