ゆえん


俯いたまま、理紗は言葉を続けることが出来ない。


「……そんな……」


理紗が言わんとしていることが四年前の記憶の線と結びついた瞬間、冬真は言いようのない感情に飲み込まれていった。

今、自分は何を聞いた?

耳に入ってきた言葉がリフレインしながら、重なり合い、整理できない。

冬真はハンドルを両手で掴み、その上に自分の顔を押し付けた。


「その人が……」

「言わないでくれ!」


理紗の言葉を遮って、叫ぶように冬真が言った。


「今は、言わないでくれ。聞けと言うなら、後で聞くから。今は……帰るまでは喋らないでくれ」


懇願するように冬真は言った。

理紗は右手で自分の口を押さえ、溢れ出る涙のままに頬を濡らし、大きく二度頷いた。

数分間、冬真は頭を垂れたまま動かなかったが、大きく深呼吸して顔を上げ、再び車道に戻った。

理紗は助手席側の窓をじっと見つめたまま、黙って座っていた。




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