ゆえん
予定通り自分がタクシーで行っていれば、事故は起こらなかったはずだ。
冬真を駅まで送ったために沙世子の運転する車があの時刻にあの場所を通ることになった。
急ブレーキを踏み、雨が激しく振っていたせいで、大きくスリップをした沙世子の車は中央線を越えてさらに土手の下まで落ちた。
事故現場に警察が来た時点では事故が発生した原因の手掛かりがなかった。
何故、沙世子が急ブレーキを踏んだのかははっきりしないままだ。
連絡を受けて病院に駆けつけた時のことを冬真は忘れられない。
二人の遺体を確認させられて、突きつけられた現実を受け入れられなかった。
事故の数分前に駅前で車を降りていた自分だけが生きている。
悪い夢であって欲しかった。
彦星と織姫が年に一度だけ会えるはずのその日は、夜になっても雨が止まなかった。
七夕でなくてもずっと一緒にいるはずだった妻と愛娘は、その日を最後に冬真には手の届かないところへ旅立ってしまった。
あまりにも突然で、納得のいかない、それは悔いても悔やみきれぬ残酷な別れだった。