ニコル
はじまり-アメリカにて-
 これが始まりの音だった。

 プルルル・・・、プルルル・・・。
 携帯の鳴る音が聞こえた。
 「ボニー?」
 「あ、お母さん。今、どこにいるの?」
 電話をとった彼女の声は弾んでいた。今日は彼女の誕生日だった。
 「キャサリンのお店の前に来ているわ。」
 母親は暖かい声でそう答えた。その答えを聞くと彼女は走り出した。
 「本当に?私も今、キャサリンのお店の向かいを歩いているのよ。」
 電話口からも彼女の息づかいが荒くなるのがよくわかった。母親はそんな娘を諭すように、また暖かい声で答えた。
 「もう、そんなに走ったら転ぶわよ。いつまで経っても子供ね。もう、二十歳になるのよ。少しは大人になりなさい。」
 そんな母親の言葉はお構いなしに、彼女は走り続けた。
 「あ、お母さん。見えた。わかった?」
 手を振る母親を見つけると彼女は電話を切った。
 交差点の信号が青に変わった。
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