ニコル
つながらない電話
 長瀬は焦っていた。
 もう百人以上の携帯に電話しているのにも関わらず、誰一人として電話をとる事がなかった。
 ―――いったい、どうなっているんだ?
 次から次へ新しい番号へ電話していく。こんな作業が永遠に続くのではないかと思われるほどだった。さらに長瀬を苦しめたのは、山口からのプレッシャーだった。また、山口が長瀬に声をかけた。
 「どうだ?長瀬。もう、いい加減に誰か繋がっただろ?」
 長瀬の表情から、まだ誰にも繋がっていない事は明らかだった。なのに、山口は自分自身のイライラをぶつけるためだけに、長瀬に言葉を投げかけ続けた。
 「いや、まだです。」
 この言葉を長瀬が言う度に、山口は眉間に皺を寄せ、悪態をついてみせた。
 「くそっ。お前、何やってんだ。」
 電話に誰も出ない事は自分のせいではない。長瀬は何度も、山口にそう言いそうになった。その度に、唇をジッと噛みしめ堪え、唾を思い切り飲み込んだ。
 ―――せっかく、刑事になれたんだ。こんな事に負けてたまるか。
 そう思っては、また電話のボタンを押し始めた。
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