ニコル
 そんな浩二の言葉はお構いなしに、堺は浩二の肩を抱え大きく揺さぶった。
 「しっかりして下さい。近藤先生。」
 浩二に見えていたニコルの顔の色がゆっくりと、ゆっくりと消え始めた。そして、その色が消え始めるのに比例して浩二は冷静さを取り戻し始めた。
 完全にニコルの色が消えると、いつもの堺の顔がそこにあった。
 「堺先生。すみません。取り乱して。」
 その言葉に、やっと浩二が落ち着いた事を確信した堺は、一つ一つの言葉をはっきりと、まるで生徒たちに話しかけるかのように声をかけた。
 「寝ぼけていたんですね。それにしても、あんなに取り乱すなんて、どんな夢見ていたんですか?」
 堺の言葉に浩二はうつむきながら答えた。
 「とても怖い夢を・・・。でも、どんな夢だったかは全然覚えていないです・・・。」
 浩二は夢の事をはっきりと覚えていた。忘れたくても忘れる事など出来なかった。しかし、本当の事など言えるはずもなかった。
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