ニコル
　「あんた達、やめなさいよ。」
　真生は巧を突き飛ばしながら、怒鳴った。そして、巧が起きあがる前に一馬の胸ぐらを掴みニコルの机から引きずり下ろした。
　自由に動けるようになったというのに、ニコルは席に座ったままだった。
　真生は苛立ってニコルにも怒鳴った。
　「何しているの？早く逃げて。」
　真生の言葉が聞こえていないのか、それとも理解できないのか、ニコルが席から動くことはなかった。
　「そいつ、おかしいんだよ。だから、お前が助けたって何とも思っちゃいないさ。」
　一馬と巧が立ち上がりながら、真生に言ってきた。ふたりの目は明らかに真生に対して怒りの炎が渦巻いていた。
　怒りの炎が渦巻いたその目でお互いに合図を送ると、まず、巧が真生を羽交い締めにした。一馬は再びニコルの机の上に座り言いがかりをつけだした。もう、浩二のクラスにニコルを助けようとする生徒はいなかった。
　「ほら、もうお前を助けるやつなんか誰もいないぞ。いい加減、なんとか言ったらどうなんだよ。」
　もう揺さぶるなんて生やさしい言葉では表現できないくらいに、ニコルの頭は前後にスイングさせられた。ここまでやられたらどんな生徒でも謝ったり、泣き叫んだり、何らかのリアクションがあるものだ。一馬は経験でそれをよく知っていた。にも、関わらずニコルは声を上げるわけでもなく、掴まれた手を振り解こうとするわけでもなく、なすがままになっていた。
　さすがの一馬も不安になり一度手を止めた。
　ニコルは顔を動かさずに、眼球だけ動かして一馬の顔を見た。
　蒼かった瞳がだんだんとどす黒く色が変わっていき、一馬はその瞳から視線を動かすことが出来なくなった。視線どころか体を動かすことが出来なくなった。必死にニコルの頭にある手を離そうとするがやはり動かない・・・。
　気がつくと一馬の周りがニコルの瞳のようにどす黒くなっていた。
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表紙・目次

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