ニコル
ふたつの不安
 真生も、保健室で休んでいるはずの巧も一馬も、養護教諭の堺も、誰も保健室にはいなかった。
 ―――いったい、何があったんだ?
 浩二にはさっきの悲鳴の意味がまったく理解できなかった。それくらい、保健室はさっきの悲鳴とは無縁な静寂の世界にあった。
 ―――しかし、堺先生までいないなんて。ふたりを連れて病院でも行ったのかな。でも、何の連絡もなしに病院に行くなんて・・・。
 誰もいない保健室で考えていても仕方ないと思い、浩二は保健室を出て、もう一度真生を捜すことにした。保健室の扉をゆっくりと力なく開いた。その瞬間、浩二は立ちつくしてしまった。浩二のクラスのガラスというガラスが割れているのが、中庭越しからもはっきりとわかったからだ。
 ―――大友、ごめん。
 真生の事が気にならない訳はなかった。でも、それ以上に浩二はクラスで起きている事が不安でならなかった。
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