未熟女でも恋していいですか?
壁塗りをしていた男と言われ、高島の顔が浮かんだのは言うまでもない。

まさか…という思いを打ち消しながら住職の顔を見つめた。


「まぁ、初対面でしたからな。流石に笑い飛ばしてました」


「……でしょうね」


母ならやりかねない。

初対面の人でも物怖じせずに話せる人だったから。


「そんな感じでおられたのだから藤さんもご縁があれば家族をお持ちなさい。女性は1人になると強くなり過ぎていかん。誰かに甘えて守られるのも幸せのうちです」


「はあ…」


曖昧な返事をしてしまった。

甘えさせてもらう前に卒倒してしまう…とは話せない。


「今度いい見合い相手の注文が来たらお宅を優先的にご紹介しておこう。そうだ。そうしよう」


ありがた迷惑ですとも言えない決断を下された。


「あはは、宜しくお願いします…」


弱ったな…と思いつつ言葉を返した。

これ以上ここに居ては、本当に縁談を勧められそうだ。



「……では、私はこれで。美味しいお茶をありがとうございました」


茶器を卓に戻して前に押しだした。

正座をしていた膝を伸ばして立ち上がり、入ってきた本堂の障子を開けた。



(眩しっ……)


遮られていた太陽光が視界に入り目が眩んで仕方ない。

眉をひそめながら瞼を細め、ゆっくりと足を廊下に下ろした。





「おーい!おっさん、買ってきたぞー!」


太い声にビクついて顔を上げた。


門前に停めた車の陰から誰かが走ってやって来る。


< 121 / 190 >

この作品をシェア

pagetop