なみだ雨





玄関を開けると、
奥からテレビの笑い声が聞こえた。


靴を脱ぎながら、ただいま、と声をかける。


引き戸を開けると、
おじさんが日本酒を片手に煙草を吸っていた。


「ただいま」

もう一度声をかける。

「早く飯食え」


おじさんはぶっきらぼうにそう言うと部屋を出ていった。


誰もいなくなった部屋のテレビを消す。


最後に写っていたのは、
女性タレントが大きく口を開けて
笑っている姿。

名前はなんだったか。



リモコンをこたつの上に置いて、
荷物を置く。

ご飯をよそって、ひとりで食べた。

お猪口にまだ日本酒が残っていた。



朝。
はるかはご飯を作る。
掃除も洗濯もはるかがやる。

おじさんには奥さんはいない。
はるかを引き取ってすぐに浮気をして出ていった。
その頃からおじさんは、荒れていた。

「今日もバイトで遅くなります。お昼と夜の分を作っておきました」

はるかは、そう言ってテーブルの端に置いたお皿を少し動かした。

おじさんは一瞬箸を止めると、
はるかを睨むように見た。

「頭いてーんだよ、話しかけんな」

おじさんは吐き捨てるようにそういうと、
箸を乱暴に置いて立ち上がった。

すみません…、はるかは小さく呟いた。


今日の予報は雨だった。


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