その瞳をこっちに向けて
そして仁先輩の姿が見えなくなると、ゆっくりとカモフラージュの為に開いていた本を閉じ、役目を遂げたその本を本棚に返す為に席を立った。
だが、本棚に本を差し込むと意を決して図書室のドアへ向かって駆け出した。
やっぱり、まだ仁先輩を見ていたい。
後、もう少しだけ!
抑えきれなくなった思いは行動へと現れる。
まさに今の私はそれだ。
駆け出した足が止まったのは、仁先輩の後ろ姿を再び目にした時。
ドクンッと大きな音をたてる心臓を抑えながら、スッと電信柱の陰に身を潜めた。
仁先輩はどうやら聞き役の様で、中畑先輩の話を聞きながらたまに首を縦に振っている。
そして、中畑先輩の話が一段落したかと思えば、鞄からさっき図書室で手にしていた本を取り出し、歩き読み。
そのせいで、前が見えなくなる仁先輩を中畑先輩がフォローするという。
何か中畑先輩って、仁先輩の彼女みたい。
思わずプッと笑い声を吹き出すも、仁先輩はやっぱり本に夢中で電信柱の陰に身を潜めながら後をつけている私になんか気づかないんだ。