その瞳をこっちに向けて
「手、離すなよ。落ちるぞ」
「わ、分かってますよ!」
そう言うと頬を膨らませながらも、落ちたらどうしよう…という不安からギュッと中畑先輩の大きな背中に身体を寄せる。
頭の中で響く心臓の音が煩くて、それを中畑先輩に聞かれたくなくて。今すぐこの場から逃げたしたい衝動に駆られるのに、その反面中畑先輩の背中から伝わる温もりを何だか手離すのも嫌で。
どっちつかずの自分の気持ちを消してしまうように、ギュッと両目を瞑った。
暫くして自転車が止まった所は、川辺の横にある細い道。さっきまでは夕日に照らされて明るかった景色も薄暗くなり、外灯の少なさも手伝ってか目を凝らさなければ遠くまで見えない程だ。
取り敢えず、自転車から降りてストンと地面へと足を付けると、自転車を立てていた中畑先輩へと顔をムケタ。
「川辺…ですね」
「おう。外灯も少ないし、ここなら綺麗なんだよ」
「はぁ?何が?」
首を傾げると、待ってましたとばかりに中畑先輩がニヤッと笑った。
「花火」
「えっ……」
「この前言っただろ。夏はもう少しだけ続くって」
そう言えば、その台詞に何言ってんだろう?って思ってた。
この事を言ってたんだ。