その瞳をこっちに向けて
「どうしたらいいのか分からなくなるならさ、何も考えないってのはどう?」
「それは、……難しくない?」
残念ながら、中畑先輩の事ばかり考えてる私にそれは先ず無理だと言い切れる。
それを鈴菜も分かっていたのか、再び溜め息を吐く。
「まっ、そうよね。考えないでいようって思うだけでも考えてるからね。気持ちはそんな簡単に区切りつけられるもんじゃないし。なら、先ずは緊張しなくなる方法か」
「何かいい案ある?」
「ない!」
思い切り断言された事にガクッと肩を落とし、「だよね」と口にするも、鈴菜の追い打ちは終わらない。
「やっぱり慣れもあるかもだし、話すのがいいんだろうけどさ。話すのも厳しい状況だしね」
「面目ない」
全くもっていい案を考える方が難しい状態に、視線が下へと落ちていく。
そんな中、鈴菜がうーん…と言いながら首を少し傾げた後、パチンと両手を打った。
「じゃあさ、先ずは挨拶だけは絶対する!って事にしたら?」
「挨拶だけ?」
突然出てきたその提案に視線を上げると、鈴菜はニコッと微笑んでいて。明らかに名案を思い付いたといわんばかりの顔だ。