その瞳をこっちに向けて


「どうしたらいいのか分からなくなるならさ、何も考えないってのはどう?」

「それは、……難しくない?」


残念ながら、中畑先輩の事ばかり考えてる私にそれは先ず無理だと言い切れる。


それを鈴菜も分かっていたのか、再び溜め息を吐く。


「まっ、そうよね。考えないでいようって思うだけでも考えてるからね。気持ちはそんな簡単に区切りつけられるもんじゃないし。なら、先ずは緊張しなくなる方法か」

「何かいい案ある?」

「ない!」


思い切り断言された事にガクッと肩を落とし、「だよね」と口にするも、鈴菜の追い打ちは終わらない。


「やっぱり慣れもあるかもだし、話すのがいいんだろうけどさ。話すのも厳しい状況だしね」

「面目ない」


 全くもっていい案を考える方が難しい状態に、視線が下へと落ちていく。


そんな中、鈴菜がうーん…と言いながら首を少し傾げた後、パチンと両手を打った。


「じゃあさ、先ずは挨拶だけは絶対する!って事にしたら?」

「挨拶だけ?」


突然出てきたその提案に視線を上げると、鈴菜はニコッと微笑んでいて。明らかに名案を思い付いたといわんばかりの顔だ。

< 174 / 206 >

この作品をシェア

pagetop