その瞳をこっちに向けて
中畑先輩の吐息が顔に掛かる。
唇に落とされるだろう感触に閉じた瞼にギュッと力がこもったその時、こっちへ近付いてくる足音と聞きなれた声が響いた。
「祐。さっき担任が来て忘れ物だってさ」
突如として聞こえてきたその声に目を開ければ、スタスタと中畑先輩の方に向かって歩いてくる人。
「うわあっ!!仁先輩!!」
慌てて叫びながら目の前の中畑先輩の顔を両手で押し退ける。と、僅かにムスッとした表情をする中畑先輩が目に映る。だが、仁先輩はそんな事をものともしないらしい。
「あっ。キスの途中だった?俺の事は居ないと思ってもう一回やり直してくれていいよ?」
「やり直さねぇよっ!」
「そう。じゃあ。はい、これ」
中畑先輩の突っ込みもなんのその。何もなかったかの様にプリントを渡すと、再びスタスタとその場を去っていく。
「仁先輩って……」
「タイミングが悪いっていうか、何ていうか。まっ、そこが面白いんだけどさ」
「見てるだけじゃ分からない事ってありますよね」
「だな」

