その瞳をこっちに向けて
それだけでも充分過ぎるくらいなのに、そんな中更に仁先輩が少しだけ視線を下に落として口を開く。
「こんな事いうのもあれだけど。……祐の事、よろしく」
「えっ?よろしく…ですか?」
仁先輩の言葉の意味がよく分からずに首を傾げると、仁先輩も私同様首を傾げた。
「だって、祐の彼女なんでしょ?」
「…………誰が?」
「君が」
「誰の?」
「祐の」
「何と?」
「彼女」
「はあぁぁぁぁぁあ!!違いますから!!」
どんな勘違いですかっ!!
私が中畑先輩の彼女とかありえないんですけど!
「照れなくても大丈夫だから。じゃあ」
へらっと笑い踵を返して去っていく仁先輩。あわてて、「ちょっ、ちょっと待って!」と右手を突き出すが、仁先輩はもう私なんて眼中にないのか黙々と教室へと歩いていってしまう。
私はといえば、その姿を見ながら呆然と突っ立ったまま。
「嘘。…………どこでどうなってそんな風に思ったんですか、……仁先輩」
そんな私の言葉は運動場の砂を巻き上げ通り過ぎた風に吸い込まれていった。