さよならは言わない

「申し訳ありません。派遣会社とこちらの会社で雇用契約を結ばれていますが、それが残業が無い契約なんです。なので、私が残業したくても契約違反になることは出来かねますので」

「部長、そんな契約したんですか? もっと現場を見て契約して下さいよ」

「私にそんなこと言われてもな。今回のこの契約は専務が決めたんだよ。私じゃないからね」

「げ……あの専務ですか?」


専務と言う言葉一つでこの森田という男性社員は黙り込んだ。

でも、残業が必要な様で頭を捻っていてどうやら困った様子だった。


「あの、もしよければそちらの専務と契約についてもう一度派遣会社の担当の田中と話し合いをして頂きましょうか?」

「そりゃあいいや。で、君にそんな権限あるの?」

「担当の田中に連絡入れてみます」

「なら、こっちは部長が専務に連絡して下さいよ。お願いしますよ」


勤務初日のはずなのに、まだ、雇用契約の内容が定まらない状態だ。

会社同士の契約は他所の会社の雇用契約と同じく正規雇用の社員の勤務時間と同じ時間帯での勤務だ。

「残業はなし」と言うのは、こちらの(株)松崎から言いだした事。

私達派遣会社側には何の落ち度もない。

会社側が現場の状況をしっかり確認せずに雇用契約を結んだことが今回の問題の原因となる。

一応、田中さんには連絡を入れたもののクライアントの所へ行っているのか留守電になっていた。

仕方ないから留守電に今の状況を簡単に録音しておいた。

後は田中さんからの連絡を待つしかないが、その前に、専務の方はどう出るのかそれが心配になった。


私の雇用問題で尊と顔を合わせたくない。

だから、部長の電話連絡だけで事が収まればいいのにと思っていた。

遠目で見ていた友美も何やら私が揉めている様子にハラハラしている様子だった。


心の中では「ごめんね、友美。また心配かけて」と、何度も両手をついて謝っていた。

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