さよならは言わない

「どう見ても赤ん坊だよな。絵里に似てないこともないが……」


複雑な思いで画像を眺めていたが、ハッとして尊は急ぎ着替えを始めた。

着替えを済ませると名簿の住所から場所を割り出しナビを頼りに車を走らせた。

運転の途中で名簿に書かれている連絡先に電話をかけた尊だが反応はなかった。


「絵里!出るんだ!」


尊は私に電話をかけていたが、倒れ込むように寝てしまった私の耳には着信音は聞こえなかった。


私のアパートへやって来た尊は部屋の前でもう一度電話をかけた。

私の携帯電話から着信音が鳴り響くのを聞いた尊は部屋の戸を何度も叩いた。

けれど、そんな音も私の耳には届いていなかった。

尊は隣の部屋の戸を叩き事情を説明し大家に連絡してもらった。

駆けつけた大家に鍵を開けてもらうことになったのだが、ここで大家が尊が私とどのような関係にあるのかを聞いた。


「他人を勝手に部屋へ入れられないんですよ」

「俺は、絵里の婚約者だ!」


尊は自分でも馬鹿げたことを言っていると思った。けれど、一大事となれば嘘も方便だと自分に言い聞かせていた。

大家は納得して鍵を開けると、茶の間に倒れている私の姿が二人の目に入った。


「笹岡さん?!」

「絵里!!」

「救急車呼ばなきゃ、ああ、どうしましょう……」


急に部屋の中が騒がしくなり意識が朦朧としながらも気がついた。


「どうしたの?」


声を出すが力が足りないのかそれ以上声にならない。そして、私は起き上がることも出来なかった。


「笹岡さん大丈夫なの?」

「お騒がせしました。もう大丈夫ですから。私がついていますから、もうこんなご迷惑お掛けしません」


尊が私を抱き寄せる姿を見て大家は気になりながらも部屋から出ていった。

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