絶対、また彼を好きにはならない。
気付いたら、朝だった。
私ちゃんと歯磨きしたのかな…と呑気に考える。
お布団の中はあったかくて、出たくなくなる。

目をほとんど開けられないまま、どうにか起き上がろうとする。

…そのとき。
枕とは違った感触が首筋に当たった。
「え…?」

「ひゃあああああ」

自分でも分からないほどの奇声をあげながら、私は布団から出て大きく後ずさった。後ろ向きにお尻をずらしていったから、窓に思いっきりぶつかってしまう。

「誰………?!」
ガンガンする頭の奥から記憶をひっぱりだす。
窓からは心地の良い冬の朝日が差し込んでいた。

彼は私の声によって目覚め、布団から起き上がった。

「…なに…?」
頭を少しかいて目をぱちくりさせたあと、彼はまたこちらを向く。

…思い出した。昨日の彼だ。

……って
「なんで上半身裸なんですか!」
声に出してみて、自分で恥ずかしくなる。
手で思いっきり口をつぐんだ。

彼は自分の状態を見て少し笑い、こちらに言葉を投げてくる。
「それでそんなびっくりしてたのか」

「そりゃびっくりもしますよ!
ってかなんで私の布団で寝てるんですか?!」
自分が出した声の音量に、自分でびっくりする。

彼はそのままはにかんでこたえた。
「だってYシャツ濡れてて着てるほうが寒かったし。それに1人でベッドより2人で布団の方があったかいかなって。」
さも、あたりまえのように。

呆れて言葉も返せない。

「なにも……」
「え?」

「なにも…… してないんですよね?」
多分私、今トマトより赤くなってる。
意を決して言った自分の決意とは裏腹に、彼はふわりとかわすように

「なにもしてません。」
と、1人うなづいた。

大きな安心のため息がこぼれる。
窓の外気から、背中があたたかい。

「ねつ…」
私がそうつぶやくと、彼は自分の手をおでこに当てた。そして首をかしげる。

その瞬間、彼がこちらへにじりよってきた。

「えっ…?!ちょ」
昨日のキスがフラッシュバックする。

寝癖と唇が近づいてきて、思わず目をつぶった。

………ぴた

おでことおでこがくっつく。

「うん……、多分下がったと思う」
彼は1人納得してまた笑った。

………近い。
とにかく近い。

昨日は細いと思ったけど、からだはやっぱり男の人で適度な筋肉がついている。
髪が乾いて、ついた寝癖が窓からの光にあてられてゆらゆら揺れている。

「…っていうか… はやくっ… どいてください…」

どうにか言葉をつなぎ合わせるが、目を向けられなくて、思わず下を向いてしまう。

「ん…?」
彼はそんな私をからかうようにその視線の先に入り、

「君こそ熱あるんじゃないの?
…顔赤いよ?」

と、薄ら笑いを浮かべながら言った。

……最低、確信犯。

私は勢いよく立ち上がり、タンスから男物のTシャツとゆるめのスウェットを取り出して彼に向かって投げた。

「これ元彼のなんで早く着てください」
…できるだけ平常心を保って。

本当は、お父さんのだけど………




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