絶対、また彼を好きにはならない。
私はきょとんとしてしまう。
「……じゃあ、今までどうやって過ごしてきたの?」
私の問いかけが意外であるかのように、拓未が答える。
「え、うーん… 友達とか、先輩の家に泊めてもらったり、もし見つからなかったら、女のコに頼んだりとか」
思わず、ため息がもれる。
「……ほんと、したたかだね、あんた」
拓未はその言葉が理解しかねるといった様子で、そうじゃなきゃ生きていけないんだもん、と肩をすくめた。
「別に毎回やらしいことしてるわけじゃないよ?」
その言葉にまた胸がしくしくする。
…って、これじゃ私が嫉妬してるみたいじゃん、と自分につっこむ。
拓未はそんな私をからかうように、
「あれ?また幻滅された?俺」
と笑う。
私は改めて聞き直す。
「じゃあここを出ていったら、他にあてはあるの?」
その質問に、拓未は今初めて考えるように唸った。
そしてキラキラした目で言う。
「ない!」
子供っぽい笑顔。
拓未はいつも、雰囲気を自在に操っている。
自分の魅力と、その引き出し方を知っているというのは、5年前とはっきり大きく変わった事実なのかもしれない。
拓未はおもむろに立ち上がり、次にその場に正座した。
そしていきなりこちらに向かって大きく頭を下げた。
「えっ… ちょっ…え?!」
そして必死さを演出したような声で言う。
「あと一ヶ……一週間でいいから、住まわせていただけないでしょうか」
彼は少しだけ顔を上げ、上目遣いでこちらを見る。
「…ダメ?」
ふーっ
私はひとつ、息をつく。
なんでこんな返事をしたのか、今でも分からない。
でもこれが、私たちの2度目のスタートだということは確かだった。
「いいよ」
彼の表情が驚きに変わる。
信じられないという顔でこちらを凝視する。
「えっ…いいの?! 俺が、ここに住むんだよ?! 同棲ってことだよ?! 」
その必死な様子に、思わず笑ってしまう。
2度目のスタートといっても、1度目とは違う。恋人としてじゃなく、一他人として。
絶対好きにはならないと誓いながら。
「うんいいよ」
素っ気なく答える。
「俺なにしでかすかわかんないよ?!
あんなことやこんなこと、しちゃうかもしれないよ?!」
彼は至って真面目で、私はまた笑ってしまった。
「あんなことやこんなことなんてさせないよ。 普通に、シェアハウスみたいなことでしょ?楽しそうじゃん」
彼は腑に落ちないと言った表情で、ぽかんとしている。
「何より、私はまた拓未のこと、好きになったりしないから。」
にやっと笑い、彼の反応を待つ。
そうすると彼はそれに応戦するように、ほくそ笑んだ。
「じゃあ俺は絶対に、咲耶にこれからも一緒に住みたいって思わせてあげる」
拓未も私も負けず嫌いだな、と勝手に思う。
「じゃあ…」
彼は正座を崩し膝を立て、目の前に座る私にそっと近づき、頬に触れ、
「…これ、なんのキス?」
そっと唇に触れた。
「よろしくのキス。」
私は絶対、また彼を好きにはならない。