絶対、また彼を好きにはならない。
エレベーターに乗るのも面倒で、階段を駆け上がったとき、部屋の電気が消えていることに気づいた。

(寝たのかな…?)

さっきのことも、拓未には響かないのかもしれないと思うとすごく胸が苦しくなった。

そーっと玄関の扉を開ける。

中はどこも電気がついていない。
人影もない。


電気をつけたとき、
部屋には誰ひとりいなくて、

リビングのテーブルに一枚、紙が置いてあるのだけが分かった。

なんとなく嫌な予感がして、その紙に目をやった。

想像した通りの、見慣れた、変わらない字。
性格や声や雰囲気が変わったって、あの日からちっとも変わってない、綺麗なのか汚いのか分からない字。

私はそっと、読み進めた。



咲耶、
今頃こんなこと言っても取り返せないんだけど
側にいてやれなくて、本当にごめん。

咲耶にもう1度会えた時、信じられなくて。
そのときは、嘘をつき続けるつもりだった。

俺だってことがバレても、どうにかして咲耶を傷つけて、また離れるつもりだった。

でも、無理だった。

今咲耶が何に落ち込んでるのかわかんなくても、助けてやりたいと思った。

でもそれは俺の5年間のわがままだから、これからする話は言い訳じゃないってことだけは、わかってほしい。

咲耶が東京に行った3日後、俺の親父は事故死しました。

葬式やらなんやらで、咲耶に連絡できなくて。
何よりびっくりするぐらい、自分が傷ついてて。

俺は母親を安心させてやりたくて、決まってた大学を蹴って働いて。

そういう辛い時、
もし咲耶の声を聞いてしまったら、
会いたいって
多分そう思っちゃうから、
甘えちゃうから、
電話に出れませんでした。

本当に、本当にごめん。

親父が死んだショックでうつ状態になった母親は、今施設にいます。

その金を送るために、俺は今あそこでツテを使って働いています。

これが俺に出来る、せめてもの償いであるなら、

もうこれ以上、咲耶には会えない。

勝手でごめん。

こんな俺を、5年前

好きになってくれてありがとう。







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