絶対、また彼を好きにはならない。

「咲耶…… 俺は……」
耳元の少し上の方で切ない声が響いて、なんだか泣きそうになる。

抱きしめてみると、やっぱり細くて、でもほどよく筋肉のついた、五年前とは違うカラダ。

ずっと、
なにがあったってずっと、
このままでいたい。

「咲耶の側にいてやれなかったし……」

街頭がちかちかして、彼の表情がなんだか見にくい。
私は彼の言葉を、ひとつひとつ大切に、胸にしまう。

「咲耶にたくさん、ひどいことしたし… また今も…逃げて……」
彼は少し私から離れて、それでも肩を抱きながら、私を見つめる。

拓未の瞳はいつだって、まっすぐに私を捉える。
その瞳に、いつも見透かされそうになるけどいつか、その瞳で何もかも伝えられるようになるために。

「俺は、咲耶を幸せには…出来ない…」

いつか、何も言わなくたって気持ちが繋がるように。
ゆっくり、ゆっくり。

「…弱気な拓未なんて、久しぶりだね」
私は少し笑って、君を見つめ返すんだ。

「…へ?」
その言葉に彼も少し笑う。

私はその笑顔を、これからも見たいだけで。

「私だって拓未が辛いとき一緒にいれなかったし、たくさんひどい事言ったよ?」

そういうと、彼は少しだけ下を向いて唇を噛んだ。
その表情は、まだ子供っぽかった五年前そのもので、風が止んだような気がした。

「自分を犠牲にして無理してくれることより、」

寒さは感じなかった。
君の温もりで充分だった。

「今弱みを見せてくれたことの方が、ずっと…ずっと嬉しいよ」


彼の澄んだ瞳から、涙がひとしずく。

私はそれが見えなかったフリをして、また彼をぎゅっとした。
強がりな彼は、泣き顔なんか見られたくないことは、私が一番分かっている。

私が一番、分かっている。

「拓未も私も、五年前からちっとも変わってないよ」

彼の抱きしめる腕に力がこもる。
今までずっと感じたかった、求めてた、優しさ。
あの卒業式がフラッシュバックする。

でも彼とはもう、はなれなくていい。

だったら、伝えるべき言葉はこれしかない。

だって私はあの日のまま。



「拓未はどう思ってるかわかんないけど、私は今も…」
言い終える前に、唇が塞がれる。

また、時が止められた。
拓未は五年前から、ずっと魔法使いだ。

「……これ、なんのキス?」

彼はいつもみたいに、くしゃっと笑って言った。

「…やっぱ好き、のキス」

時間は、止まったまま。








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