女神の箱庭
¨平和ボケ¨とは、平和に浸り毎日を無駄に過ごすことではなく、平和を平和だと感じなくなり現状を変えようと考えだすことだ。

そしてそれを実行しようとする者を、人は¨革命家¨と呼ぶ。

グレンダが謳うヴィーナスシステムの破壊は、まさに革命的思想である。
時間と暇をもて余した富裕層の人々は刺激を求め、そんな彼の思想に浸りながら酒を飲む為に高い金を払う。


誰一人とて本気で世界を変えようとは考えていない。
革命家きどりとその活動に酔っ払っているだけの客たち・・・全てが茶番劇なのだ。





『何も考えないようにしないと・・・』

冷たいシャワーを頭から浴びながら、フェンリルはポツリとこぼした。
グレンダに抱かれるのは今日を入れると3回目になるが、慣れるどころか前回より嫌悪感は増していた。
みっともない格好で拘束され、みっともない声をあげながら体液を垂らし、好きでもない男に全身をくまなく観察されいたぶられる時間は苦痛以外の何物でもなく、その間は嗚咽感と戦いながら心を空っぽにする事だけを考え続けている。


『マルコキシアス様の崇高な理想を実現する為なら、これくらいのことは我慢しなきゃ・・・。
僕を認めてくれたあの人の役に立てるんだから、誇りに思わなきゃ・・・』

フェンリルは自分にそう言い聞かせ覚悟を決めると、降り注ぐ冷水を止めた。

身体はやけに火照り、過敏になった肌を伝う雫に思わず身体を捩らせる。
横の壁にかかる全身を映す鏡には、すっかり発情した肢体が艶かしく濡れていた。


(乱れ堕ちる無様な僕の姿を、マルコキシアス様にも見てもらいたいな・・・)

不意に湧き出た背徳的な感情と下半身の疼きに驚いたフェンリルは、慌てて首を左右にブンブンと振った。


『これじゃ、変態じゃないか・・・』





シャワー室を出ると一本道の廊下だ。
突き当たりを左に折れるとグレンダの待つ控え室がある。
赤いドレス姿のフェンリルは唇を軽く噛むと、重い足取りで部屋へと向かう。



『待った?少し遅くなっちゃった』

フェンリルは精一杯の笑顔を作ると、ドアを開けて部屋へと入った。
だが一瞬で、視界に飛び込んできた光景に我が目を疑う。


『グレンダ・・・さん・・?』

グレンダがソファーの縁を枕にするようにして床に座り込んでいる。
その姿は血だまりに沈み、一目で死んでいると確認できた。


『あ・・・何で・・誰がこんな・・・』


フェンリルは目を見開き後退りしながら震える声を絞り出した。
恐怖に崩れそうになる脚に力を込め、廊下へとゆっくりと頭を出し辺りを見渡す。

グレンダを殺害した人物は、まだこの近くに居るはずだ。


『どうしよう逃げないと・・いや、その前に・・・』

フェンリルは再び、動かぬ骸と化しているグレンダを睨みつけた。



(コレをどうにかしないと・・・!!)










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