君に向かって、僕は叫ぶ。
3:向日葵の涙。
それから時間は過ぎ、今日は退院の日。

気付けば季節は、もう春が終わろうとしていた。


体の調子も良くなって、怪我も大体は治った。

それに、この息苦しい部屋からもやっと抜け出せる。

だけど、僕は何も感じなかった。

まるで、心の中に大きな穴が開いてしまったみたいに、僕は空っぽだった.....。



「湊ー?準備できたー?」

「!!」

僕の病室に、ノックもなしに入ってくる美咲。

あれから、美咲とは話してもなかったのに....。

「....ノックくらいしてよ。....準備は、大体できてるけど。」

「ごめんって!じゃあ荷物類運ぶの手伝ってあげる♪」

そう言って、「よいしょっ」と僕の荷物を持ち上げて、病室を出て行く。

僕はその後ろを歩いた。

いつまでも続きそうな廊下を歩きながら、美咲の背中に心の中で問いかける。


どうして美咲を傷つけた僕を、美咲は気にかけてくれるの?


でもその答えは、シンプルで簡単なものだって僕は知っている。

美咲が優しいことなんて。

だって昔からの、長い付き合いだから。


でも.....僕は、美咲を何度傷つけるんだろう。


「湊?何暗い顔してるのー?あっもしかしてどこか痛い!?せ、先生呼んでこようか!!」

「だ、大丈夫だからっ!....えっと、ちょっと考え事してて...。」

「そう?ならいいんだけど...。」

心配そうな顔で、辛そうな顔で、美咲は笑う。

前はそんな顔で笑うことはなかった。

温かい。向日葵のような顔で、美咲は笑っていたはずなのに。

きっと、美咲の笑顔を壊したのは、この僕なんだと、実感した。

そう気付いたらもう、耐えられなかった。

「美咲、ごめん。病室に忘れ物したみたいだから、先受付行っててくれない?」


ごめんね。何度も傷つけて。


「....もうしょーがないなー!受付で待ってるから、行ってきていいよ?」


ありがとう。こんな僕のそばにいてくれて。


「.....うん。じゃあ、バイバイ。」


さよなら。

僕は美咲に聞こえないように、呟いた。
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