Last present ~夢を繋いで~ ※Episode2&3追加5.30





ふいに着信を告げる携帯。






お母さんからの着信。





余計な詮索をされるだけだから、
出ない……。





今は私を一人にして……。







エレクトーンを忘れたくて、
気持ちを紛らわせたくて
街の中を歩くのに、私の意識は、
すぐにエレクトーンへと戻ってしまう。




その音色を聞くと、心が苦しくなって
気持ち悪くなるのに……だけど意識が、
エレクトーンから離れさせてくれない。



ずっと私を包んでくれてた
大切な世界だから?





だけど……だけどね。
もうその世界には居場所がないんだよ。



プリンスに……嫌われてしまったから。








ふらふらとレンタルショップを彷徨い出て
辿りついた公園の滑り台に腰掛けて
必死に涙を拭っていく。







『ねぇ……助けてよ。

 ただ憧れて史也くんみたいに演奏したかっただけ。
 それだけなのに……』



心が悲鳴をあげる。
そんな日々の繰り返し。





泣いて、泣き続けて真っ赤に目を晴らしながら
自宅へと帰る。






「ただいま……」




小さく告げた言葉。



いつもは仕事で遅いお父さんが、
帰ったばかりの私の頬を叩いた。




誰もわかってくれない。







お父さんを睨みつけて、
自分の部屋へと閉じこもる。






いつもはそういう時にずっと傍に寄り添って慰めてくれた
私の相棒にも今は私自身が触れることを許せない。






「もう、お父さんもお母さんもほっといて。
 私、エレクトーンやめるから」


わざと自分に言い聞かせるように
声を張り上げる。


そう言うと、ずっとプラグにさしっぱなしにしていた
相棒のコンセントを引き抜いた。


毎日学校に行って放課後は街の中をふらふらと彷徨って
夜に帰宅しては、両親と言い合いをして不貞寝して翌朝を迎える。




そんな時間だけが流れて季節は二月へと移ってた。





「奏音、本当にもうエレクトーンしないのね?」

「うん。
 エレクトーンは辞めたから」






自分に言い聞かすようにお母さんに答えて、
学校に出掛けて帰宅したその日の放課後。
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