意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
「あの、木島さん」
「ノーは受け付けないよ。麻友を抱きたい。それを拒否するなら、早速籍を入れさせてもらうから」

 どこか必死な木島に、私は小さく呟いた。

「ごめん、無理なの」
「それは俺に抱かれたくないということ?」
「それは違う!!!」

 そこは断固として否定しておかなければならないだろう。
 恥ずかしいし、未知の世界だ。恐怖心がないかと問われれば、かなり恐怖心はあると答える。
 だけど、私たちの今の不安定な状況を置いておいても、私は木島と触れあっていたい。
 ギュッと抱きしめてもらうと、心臓がうるさいぐらいにドキドキした。だけど、同時に安心感もある。
 キスをされて、どうにかなってしまうかと思った。だけど、止めてほしいとは思わなかった。
 私だって心も体も結ばれたい。などと柄にもなく思っている。心の奥底から。
 その気持ちに偽りはない。
 それを木島に伝えると、彼は眉間に皺を寄せた。

「じゃあ、どうして?」

 木島じゃなくても疑問に思うことだろう。
 気持ちは一緒。あとは二人で溶け合うだけの話だ。だけど、私にはそれができない諸事情がある。それは――――
 私は言いづらくて、俯いたまま口を開いた。

「……月のモノが」

 それもつい昨日なったばかりというタイミングの悪さ。
 ガックリと項垂れる私に木島は驚いた様子を見せたが、すぐにいつもの柔らかい笑みを浮かべた。

「そういうことか……ああ、良かった。俺が嫌いだから抱かれたくないって拒否されたかと思った」
「あの、えっと……ごめん?」

 謝る私に、木島は首を横に振る。

「いや、こればかりは仕方がないこと。麻友の身体を思いやってやれなくてごめんな」
「べ、別に……謝らないでいいわ。だって……ちょっと困ったけど、嬉しかったから」

 思わず出た本音に恥ずかしがっていたが、目の前の木島もなんだか顔が赤い。
 どうしたのか、と顔を覗き込んだのだが、そのまま手首を掴まれ歩き出した。

「ちょ、ちょっと! 木島さん?」
「麻友。抱きしめるのは後日にする。だけど、俺の部屋に来て。麻友にいっぱいキスして抱きしめて、めいいっぱい可愛がってあげたいから」
「なっ!」

 本当にこの男。やることなすこと言うこと、すべて直球すぎるのだ。
 心臓がバクバク音を立てている。少しでも心を落ち着かせようと深呼吸をしたのだが、それは無駄となった。
 だって、木島は笑顔でとんでもないことを言ったのだから。

「抱くのは今回は諦めるけど、麻友を諦めはしない。婚姻届、俺の部屋で書こう」
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