意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
 そんな面倒くさい男どもは今はどうでもいい。
 とにかく今は何かお腹に入れたい。それだけだ。

 人がいないはずのオフィスビルなのに、エレベーターの到着が遅い気がする。
 私が早く木島から逃げ出したいと思っているから、時間が長く感じるのだろうか。

 私の念力が通じたのか。やっとエレベーターがやってきた。

 この男と密室に二人きりという状況になるのを一瞬だけ戸惑ったが、一方の木島はさもありげにほほ笑み、扉を手で押さえている。

「ほら、菊池女史。早く乗って」
「……」

 こんな状況では乗らないわけにもいかないだろう。
 私は小さく嘆息すると、エレベーター内に乗り込んだ。

 シンと静まりかえる庫内。残念ながら私たち以外はどの階でも乗り込む人は皆無のようである。
 
「久しぶりだな、菊池女史」
「そうね。でも海外事業部の課長って暇なのかしら? よくお見かけするような気がしますけど?」

 嫌味たっぷりに「私の前をチョロチョロと目障りだ」という気持ちを込めてほほ笑む。

 しかし、そこは木島だった。

 色気たっぷりの笑みを浮かべて余裕の表情。もちろん頬にはえくぼができて、可愛らしさもプラスされている。
 きっと他の女子社員ならのぼせ上がってしまうことだろう。うちの社員だけじゃない、若い女の子ならクラクラきてしまうかもしれない。

 しかし、私は簡単に靡かない。恋だの、愛だの。昔から興味がないのだから、のぼせ上がるなんてこと今までにしたことがない。

(それはこれからも一緒よ! オホホ!)

 心の中で高笑いをする私だったが、突然木島は私の肩を強引に掴み、抱き寄せてきたのだ。
 予想外の出来事に、一瞬言葉を忘れてしまう。

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