意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)

 まさかこんなところで会社関係者に、それも最近では一番顔を合わせたくない男ナンバーワンである田中とバッタリと出会ってしまうだなんて。

 背を向けたまま、気が付かないふりでもして店の中にでも入ってしまいたかった。
 しかし、次の瞬間。それが叶わないことが判明した。

「あら、こちらが菊池さんなの?」

 マダムっぽい口調で田中に話しかけている女性。たぶん、声の感じからして田中の母親だろうか。田中の母親ということは、我が社常務の奥様ということ。
 ますます挨拶をしないわけにはいかないだろう。

 私は心の中で大きくため息をついたあと、田中たちを振り返った。

「こんにちは」

 ペコリと頭を下げたあと顔を上げると、田中は驚いたように目を丸くした。
 その様子を見て、今の自分の格好を恨んだ。

 田中が以前、私に「パステルカラーの服を」などと言って、服を買ってあげるなどと言っていたことがあった。
 今日の服はパステルカラーじゃないにしろ、いつも仕事仕様で纏っているモノクロではない。
 いつもよりカラフルな洋服で、髪も下ろしている。この格好を見て、田中が勘違いしなければいいのだが。
 しかし、私の杞憂は、やっぱり現実のものとなった。

「ほら、前に俺が言っただろう? 麻友ちゃんは可愛い服が似合うって」
「は、はぁ……」
「もしかして、俺が言ったから?」
「はぁ!?」

 思わず本音が出てしまった。慌てて口を押さえる私を見て、田中はニヤニヤとどこか楽しそうだ。

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