◆Woman blues◆
「なにって、分かってるでしょ?」

私は僅かに息を飲んで太一を見上げた。

太一は茶色の瞳を甘く光らせて私を見つめたまま、唇を引き結んだ。

……実は、隆太と焼き肉を食べに行ったのを最後に、二人とはプライベートな付き合いは控えていた。

勿論、この度のクリスマス&正月企画のデザインに集中するためだ。

良いものをデザインしなければ、私を抜擢してくれた課長をはじめ、それを後押ししてくれた仲間に顔向けできないもの。

「僕、めちゃくちゃ我慢してるんですけど」

私は平静を装いながらも焦って言った。

「鮎川くん、あの、その話は後でね」

「じゃあ、今晩空けてください」

「でもほら、週末は皆で祝賀会だから」

「それは別です。あなたと二人だけで食事がしたい」

いつの間にか太一の顔に微笑みはなくなっていて、変わりに凄く馬鹿真面目な表情をして私を見ていた。

「……分かった」

「やった!!」

「もうっ!声が大きいよ!」

「すみません、つい」

「じゃあ、仕事するよ」

白い歯を見せた太一が無邪気だったから、私はおもわず苦笑した。
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