ドルチェ~悪戯な音色に魅せられて~
アースクエーク
望月花音、26歳。
付き合って一ヶ月の彼に、私は突然フラレタ。


「ごめん、やっぱ俺ムリ」
「……は?」
「顔と性格のギャップ?ツンデレに興味あったんだけど、合わないわ」
「……つまり?」
「だから別れて」

「……わかった」


ツンデレ?興味?

彼氏から可愛いげがないと振られた私。
こういうこと別に初めてじゃないし、そこまで好きで付き合っていたわけじゃないから、別にいいし。

でもね。



「ふざけんなー!興味ってなによー!」



「花音、今日も荒れてるね~」
「うわーん」
「そんなに好きだったの?」
「違うわよ。振られる理由が……」
「毎度毎度、『可愛いげがない』じゃあね」
「うわーん!恵理ーっ!」
「よしよし」

ここ数日、仕事終わりに親友で仕事仲間の恵理と居酒屋へ寄り、酔い潰れるまで飲んで帰る生活。
振られたのが辛いんじゃない、一人寂しい部屋へ帰るのが辛いのだ。
二日酔いで土日寝込んでいるくらいがちょうどいい。

「ツンデレって何!可愛いげって何!」
「ちょっと花音、声デカイ……」
「私なんて、どーせ可愛くないですよー!!」
「花音、顔と名前は女の子らしくて可愛いのにね。せっかくのロリ顔が台無し……」
「うっ、うぅ……、ロリ言うな。生おかわりー!」
「待て待て待て!」
「恵理、止めないで。週末くらいとことん飲みたいの」
「……そうじゃなくて」
「じゃあなに?」

「今日はこれから特別なトコロに行かない?」

「……んん?」

恵理の不吉なウィンクに鳥肌が立つ。

連れて来られたのは、とある有名ホテルの最上階にあるバーだった。
緊張しながら扉を開けると、ほんのり薄暗くて夜景を眺望できる贅沢な空間。
中央のグランドピアノは圧巻だった。

「……え、 恵理」

ちょ、何ここ……。敷居が高いって。
一般人が入れるトコロなの!?

「こんな高そうなとこ大丈夫?私お金ないよ」
「ヘーキヘーキ。って言ってもさすがに一人じゃ来づらいんだけど」
「二人だって来づらくない!?」
「いや~、この間バーのオーナーと運命的な出会いしちゃってね」
「はぁ!?」
「花音も毎晩やけ酒してないで、誰か紹介してもらいなよ。イケメンだよー!」
「…………私、いいよ。帰る」

男の人なんて、わからない。
当分恋なんて、したくない。

私が身をひるがえすと、ちょうど入って来た人とぶつかってしまった。

「ごっ、ごめんなさい!」
「大丈夫?」

う、わっ!カッコイイ人……。
黒のタイトなスーツを着こなしていて、襟元に光るラペルピンがお洒落。
爽やかな草食系って感じ?
眼鏡かけてて知的で優しそう……って、いかんいかん。
男にはもうコリゴリなんだから。
ペコリと頭を下げてドアに手をかけると、すかさず恵理が私の腕を捕まえた。
巻き添えにする気かーーー!
恵理は、私がぶつかった人の隣にいる男の人に声をかけた。

「あっ!昂くん、来ちゃったよ~」
「えー……っと、恵理ちゃん!」
「もう!忘れたのー!?」
「ごめんごめん。お詫びに奢るから、二人ともどうぞ?」

昂くん?まさかその人がオーナー?
思っていたよりも若いし、ニコニコしていて話しやすそうな人。
黒の蝶ネクタイが似合っていて清楚な感じ。
恵理が好きそうなタイプだけど。

「あの、私は帰るので……」
「花音ってば。もっと飲みたいって言ってたでしょー!」
「だからそれは……っ、もう疲れたしかえ……」
「心が疲れたんだよねー?」
「なっ」
「ツンデレは辛いんだよねー?」
「やめてよっ」

恵理ってば、見ず知らずの人達になんてことを!

「えーなに失恋?」
「花音と付き合った男は大体、可愛いげがないって去って行くの」

酷い、そんなこと言わなくたっていいじゃない!
オーナーさんと盛り上がる恵理を横目に、一言も話さない眼鏡の人。
私は憐れまれているのか、蔑まれているのか、どちらにしても恥ずかしさに俯き涙をこらえた。
< 1 / 20 >

この作品をシェア

pagetop