煩い顔。煩いオマエ。煩い心臓。
近い時

隣にいる覚悟

翌日の晴れた屋上。俺らいつもの4人は、購買と持参の弁当を広げて昼休み中。大葉と黒永は次の体育の為ジャージを着ている。ちなみに俺はサボるつもりでいる。

「……つーわけで、お前らは付き合ってるってわけ?」

「まぁ……そういうことになるな……。」

「おおおっ!ついにことに及んだかぁ!?このこのこのっ!」

「あぁ!!?何言ってんだよテメェ!!そんなっ……そんなの……っ!」

黒永と俺は予想どおり大葉と田代にいびられた。顔を真っ赤にして叫ぶと、黒永は表情を変えずに淡々と言う。

「安心しろ。こいつの処女はまだだ。」

「はぁっ!?」

「ブッ────!!いきなりぶっこむなよ!食事中だっての!……よく真顔で言えたな……。」

「ブッフォwww!しょっ、処女っ……コウ……お前さりげなネコやくだぞっ……!」

「ざっけんな!!」

俺は購買で買ったパックの飲み物を勢いよく握り潰した。グチャッと潰れたパックからは牛乳が溢れた。

「うわっ!!」

「おいコウっ!何やってんだ!」

「ははっ!!そんな照れんなよ!」

ぽたぽたと白い液体が手から滴り落ちる。右脚にこぼれたそれは、制服のズボンにシミを広げていった。

「うっわ最悪……やっちまった……。」

「……馬鹿だな。」

黒永が小さく呟くと弁当を床に置き、面倒くさそうに腰を上げた。そしてジャージの下を脱ぎ始めた。

「おまっ……!?」

「キャーー!」

「何騒いでんだ。下履いてるに決まってんだろ。」

黒永のジャージの下には短パンが履いてあり、少し安心する。

「っていうか、きゃーってなんだよ。」

「やだぁもぅ、ノリだよノリ!」

「相変わらず大胆だなぁ黒永……。」

すると脱いだジャージ下を、俺に差し出した。

「あ?」

「どうせ、体育サボるつもりで体育着持ってきてないだろ。貸してやる。」

「……え。」

俺は少し驚いた。まさかこんなことをするとは思いもしなかった。素直にジャージを受け取ると、黒永は座ってまた弁当を食べ始めた。

「……雨……お前……。」

「コウの身長じゃ雨のジャージ長くね?」

「ぶふっ……!」

田代のツッコミに大葉が吹き出すと、頭をペチっと軽く叩く。

「なっ……笑ってんじゃねぇヨッシー!つーか百っ!そんなに俺は短足じゃねぇ!!普通だ普通!そこまで身長も変わんねぇだろーが!」

「くははっ……いやぁ……改めて腰の位置見ると、結構……ねぇ?」

「あ!あれは下げパンではなく正位置だったんすか!俺はてっきり…そういうファッションかと!」

「あぁああぁ黙れ貴様らっ!!牛乳飛ばすぞコラァっ!!」

わざとらしく言う2人に腹が立つ。手についた牛乳を2人に向かって飛ばす。

「うわっ!!汚ぇぞコウ!いろんな意味で!」

「じゃかしぃわっ!」

「いちいち熱くなりすぎだっての!ちょっとからかっただけじゃねぇか!」

「そうだぞ!!悪気はあったけどそこまでことじゃねぇだろ!」

「牛乳ぶちまけた時点で俺の堪忍袋の紐は切れてんだよ!!」

「ゆるゆるかっ!」

「うっせぇ!」

俺と田代は屋上を駆け回った。その様子を大葉と黒永は眺め、ため息をつく。

「はぁ……ガキは元気だなぁ。」

「ガキじゃなくて猿のまちがいだろ。」

「それ言えてる。」

数分追いかけ回したあと、疲れて元の場所へと戻ってきた。

「はぁっ……疲れた……。」

「もうっ……なんなのよマジ……ガチになりすぎっしょ……。」

「おっつー。」

「コウ、着替えなくていいのか。」

「分かってるっつーの。じゃ、もう飯食い終わってるから帰って保健室で寝るわ。」

「あ、おい。」

「んじゃ。」

俺は屋上の鉄製ドアを開け、その場を後にした。

「……んだよ。素っ気ねぇなコウのやつ……ちょっと、怒らせたか?」

「……。」

しばらく沈黙が続くと、大葉が口を開いた。

「それにしても雨、よく付き合ったな。出会ってから付き合うまでの時間短くないか?」

「確かに!あんなうるさいやつによくOK出したな雨!」

「まぁ……なんだかんだで色々あったしな。あいつのこと、別に嫌いなわけじゃないしな。好きだって胸張って言えるくらいだ。」

「やだ!黒永クン、イケメン!」

「それ、本人に言ってやれよ。喜ぶぞ?」

「それがな……。」

黒永はうつむくと、ペットボトルの炭酸飲料を1口飲んだ。

「……好きだって言ったら、脇腹にボディーブローくらったんだよ……。」

大葉と田代は『うわぁ……』と2人して苦い顔をした。

「いくら照れてるからってそれは……。」

「コウ……恐るべし。」

「その後……しばらく動けなくなった。内臓口から出て来るかと思った……。」

「……頑張れよ。」

2人から肩を叩かれる黒永。しかし黒永は。

「だけど、あいつの照れてる顔見れるなら、これくらい屁でもない……おもしろいし。」

「……いい性格してるよほんと。」

「お互いにドSってか?やだわぁもう盛っちゃってまぁ!」

田代は両手を頬に当て、女口調で言う。呆れた顔で大葉と黒永は見る。

「百はそんなに雨とコウをヤらせたいか……。」

「やだん♡もぅ♡ヨッシーのエッティ♡そんなんだから彼女出来ないのよ♡」

「殴るぞクソザル。グーで。」

威圧的な目で田代を睨み、鍛えられた拳を田代へ向けてみせる。

「悪かったって!!ジョーダンよ冗談っ!!大葉クンはイケメンで、勉強も運動も出来る文武両道のエリートだからすぐ彼女出来るよっ!!」

「だったら今頃ハーレムウハウハLifeだろうがぁぁっ!」

田代は立ち上がると、空に向かって叫んだ。

「なぜっ!!俺には彼女が出来ないっ!!何故だぁぁぁ!!」

「……悲しいヤツだな。」

「黙れホモリア充っ!DTも卒業してねぇお子ちゃまに言われたかねぇんだよっ!」

「あ、地雷踏んだねヨッシー。」

「言うでないっ……!」

そう言うと大葉はペタリと床に膝をついた。確かに大葉は顔も整っていて、文武両道で気も利くし、非の打ち所のないやつだが、恋愛に関してはさっぱりのようだ。

「俺は努力してるっ……!完璧になろうとしてる!ここまで上り詰めてもまだ足りないか女どもは!!」

「……そういうとこなんじゃないか?」

「えっ?」

「完璧すぎる人ってのは恋人ではなく、アイドルや俳優みたいな憧れの存在になってるんじゃないか?」

「あ……アイドル……。」

「ブッハ!!ヨッシーが?アイドル??そりゃねぇぜ雨wwwこいつは無理だ!ステージ上がった瞬間笑っちまう!」

「あぁ?」

再度田代を睨むと田代は口を抑えしぼむように小さくなった。

「アイドルは例えだ。俺が言いたいのは、少しぐらい欠点がある方がモテるかもってことだ。完璧を求めるのはテレビや芸能界で、現実は相手の足りない部分を補ってやる存在になりたいって思うもんなんだよ、女は。」

「ほぉ〜……なんでそんなこと知ってんの?」

「東野から聞いた。」

「あの学校1のアイドルから!?つーかサヤちゃんと仲いいの!?メアドとかもう交換してる感じっ!?」

「……なんでそこまで必死なんだよ。向こうからメアド交換しようって言ってきたから、するしかないだろ。」

「したのかよぉぉっ!!」

「この…裏切り者め……リア充のくせに女と……しかも向こうからだと……!」

心底悔しがる大葉と田代に戸惑う黒永は、なにやらケータイを取り出し、文字を打っている。そして、2人の方を向き。

「……お前ら、東野のメアドいる?」

「欲しいですっ!!」

すがるような目で黒永を見る2人。またケータイに向かう黒永はしばらくすると顔を上げた。

「……OKだってさ。」

ケータイを2人の方へ向け、そこには顔文字が使われた女子らしい返信がされていた。『オッケーだよ(≧ω≦)』と書かれている。

「いよっしゃぁぁぁっ!!」

「マジありがとう!!」

体全体で喜びを爆発してる2人を見て、黒永は笑いをこらえていた。こうも素直に喜ばれると、黒永もいささか悪い気はしない様子だった。そんなバカ騒ぎをしていると、予鈴が鳴り響いた。

「ヤッバ次教室移動じゃん!!なにも準備してねぇ!!」

「あ、次校庭で体育だ。」

田代が跳ねるように立ち上がると、散らかしたゴミを急いでまとめて鋼鉄製の扉へと向かった。

「ほんじゃ!サヤちゃんのメアドありがとねぇ!」

「授業遅れんなよー。」

バタンと重たい鉄の音が響く。黒永と大葉はその後のんびりと校庭へ向かい、体育の授業へ参加した。一方そのころ俺は、本当に保健室で昼寝をしていた。

「……んー……今、何時だ……?」

黒永から借りたジャージを着て、ネクタイやパーカーも脱いで楽な状態で眠っていた。

「……ありゃ?まだそんなに経ってねぇな……。」

最近あまり眠れていない。はっきりとした理由は分からないが、恐らく無意識に黒永のことを考えているからだろう。授業中はものすごく眠い。

「あら?もう起きたの?」

保健の先生がカーテンをめくる。俺は目をこすり、コクリとうなずく。

「……黒永君、家でちゃんと寝てるの?少しクマが出来てるわよ?」

「え……マジすか……。」

「そんなんじゃ、身長伸びなくなっちゃうわよ。バレー部なのに身長足りないんじゃ、悔しいでしょ?」

「……うす。」

俺は力なく返事した。流石に、いくらプライバシーを尊重してくれるとはいえ学校の、しかも女の先生に、黒永との関係を相談するわけにはいかなかった。ましてや、恋人のことを四六時中考えていて夜も眠れないなんて、口が裂けても言えない。

「……黒永君。」

「ん?」

「何か……先生に相談したいこととかは、無いの?」

「っ……。」

やはり俺の態度は分かりやすいようで、すぐにバレてしまった。なんでこんなにも自分は正直な人間なんだろうか。

「……何も…無い……と思うっす……。」

「そう?寝不足なんて、黒永君らしくないわ。悩んでることがあるなら先生に遠慮なく言ってちょうだい。先生も一緒に頑張るから!」

「……あざっす。」

「でもまぁ、今は寝ることね。今のままだと体調崩しかねないから、寝れる時に寝ておきなさい。」

「……。」

『正直言って、あんまし眠くねぇんだよなぁ……でもクマ出来てるって言うし……。』

「……外見てる。あんまり寝る気になれねぇ。少ししたら寝る。」

「そう……好きになさい。私はこのあと出張だけど、好きに使っていいから。」

「うす……。」

そういうと先生は、支度をして保健室から出ていった。

『……なんでこんなんになっちまったんだろーなぁ……。』

窓によっかかりながら、春の陽気を吸い込みため息をつく。外では俺のクラスの男子がサッカーをしている。賑やかな雰囲気で、外を駆け回る姿をボーッと眺めている。

「……はぁ……。」

しばらく暖かい陽の光を浴び、目をつぶってまた懲りずに黒永のことを考えた。

『好きだって言ったのは俺で、きっかけも俺が原因で……お互いドーテーだってのに……。』

「……なんであいつの方が何もかも上なんだよちくしょう……。」

窓際で顔を伏せ、声に出してみた。顔に熱を帯びるのを感じた。

「はぁ……。」

『あいつに……雨に触りたい……。』

「────危ねぇ!避けろコウ!!」

「はっ……?」

顔を上げると、目の前にサッカーボールがある。ヤバイと思ったものの、反応しきれずに顔面にボールは直撃した。鼻の頭を回転する硬いサッカーボールが当たり、激痛が走る。そのまま痛みに体を埋めた。

「痛っ────てぇぇぇっ!!」

「おい!大丈夫か!?」

俺のクラスメイトが駆け寄ってくる。恐らくボールを飛ばしたやつが青い顔をして謝ってくる。

「……くっそ……。」

「本当にごめんっ!まさか、顔面に当たるとは思わなかった……本当にごめんなさい!!」

「っ……チッ……平気だっての……さっさと散れ。」

耳障りな声に少し腹が立った。そのとき、1人がこちらに走って来た。
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