漆黒の白雪姫。【完】




「あなたは、誰かしら」


私は綺麗な灰色の瞳を睨んだ。


「殺し屋、といったところかな」


男は私の睨みに動じるわけでもなく、ヘラヘラ笑う。


「へぇ。誰に依頼されたのかしら」


「さぁ、誰でしょうか。俺的には、君ほどの人を殺すなんて勿体ないなぁって思うけど」


今さっき自殺しようとしていました。


なんて、言ってあげないけど。


「なら、早く殺してくれない?」


「君、死にたいの?」


「何でもいいでしょう?早くして」


男はどっからかナイフを取り出して、それをペン回しのように手元で遊び始める。


怪我しちゃえ。


と思ってたら、ナイフは動きを変え、床に急降下。


ドサッ。嫌な音とともに床にナイフが刺さった。


あのナイフはなかなか切れ味が良いらしい。


「ダサいですね、落とすなんて」


「ははっ。確かに。けど、結構これ難しいからね」


「へぇ」


静かに笑うこの男は、本当に殺す気があるのだろうか。


ふぅ、と落ち着くように吐息を吐き出した彼は、さっきと違う笑みを浮かべる。


まるで、月のような笑みだ。


太陽みたいにキラキラとしていなくて、静かで、穏やかでいて、美しい。




「俺はね、死ぬのを拒む人を殺すのが好きなんだよね」




綺麗な顔には似つかない狂気の言葉だった。



< 3 / 16 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop