電車で見かけるあの人の横には、いつも彼女がいた
いつもと同じ時間、同じ車両。

「渡瀬さんは、本が好きなんですか?」

「うん。美里ちゃんは好き?」

「嫌いじゃないです」

あれから、私と彼の距離はグッと近くなった。

彼の名前は『渡瀬 翼』さん。

都内の進学校の、2年生。

私の一つ上。

「あの……」

「うん?」

「一つ、聞いても良いですか?」

「何?」

「……いつも一緒にいた、あの人は……」

渡瀬さんは、パタン……と本を閉じ、

「……他に好きな人が出来たんだって」

とだけ呟いた。
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