密星-mitsuboshi-

早紀と美加は
新規でクレジットカードの申し込みをする顧客に対して与信審査をする部署に在籍している

男性2名女性8名合わせて10名ほどで
ノルマや数字に追われることのないこの部署は2人にとって、
とても居心地がよかった

同じスペースに債権管理部が引越してきたのは2年前

カードの支払いを延滞する顧客や
未払いが続いている顧客を対象に
請求行為をする部署になるが
ここ数年でそういった顧客が増え
会社としてその問題は急務だった
力を入れるため人員を増やしたため
使っていたブースが手狭に

規模の割にフロアを独り占めしていた審査部とスペースを共有することとなった


その管理部には林田が籍を置いている
早紀と林田が美加を介して仲良くなったのも
その時からになる


午前9時30分

皆が一同に席から立ち上がり
自部署ごとの朝礼が始まる

でも 今日は違った

「おはよう
今日は管理部と審査部合同で朝礼を」

審査部の吉田課長が全体に声をかけた
前に出た吉田に全員の身体と視線が向く


50歳前後で前髪に薄く白髪が混じり
丸いフレームのメガネの奥の目は垂れ目
物腰が柔らかく滅多に声を荒げたりしない
そんな吉田は審査部以外にも信頼が厚く
人気のある人物だ


「皆も知っての通り本日付けで
管理部の責任者として来られた渡瀬課長。
こちらへ…」

吉田に紹介され
管理部ブースから1人の男性が
吉田のいる前方中央へと出てきた

年齢は30前後でダークグレーのスーツに
少し褐色の肌が映える

ー あれ…? あの人 ー

早紀は驚いた
そこにいたのは
朝、横断歩道で助けてくれた人
まさにその人だった

ーあの人、管理部の新しい課長だったんだ…ー

早紀は無意識に掴まれた腕をさすった

渡瀬は1歩前に出て
自分に集中する視線を見渡した

「今日付けで管理部を任されることに
なりました渡瀬です。
知っての通り管理部の現状は
頭が痛い問題が多くこれをなんとかしないと
いけないということで…
ビシビシ!とやっていこうと思ってます。
また、審査部の皆さんには
私が来たことで、そのビシビシ!の部分で
少し騒がしくなるかもしれませんが
予めよろしく」

と言うと口元だけ笑った

騒がしくなる??
大半の社員の頭の中には
ハテナが浮かんでいたが
一部の管理部の社員は
目と目を合わせ下を向いた

それを見た吉田は面白そうにニヤっと笑った
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